家族の心のケアの重要性
- 2009.01.20
- 脳脊髄液減少症
T.S君
彼が4歳の時、髄芽腫という悪性脳腫瘍を患いました。私は慈恵医大でT.S君を担当させて頂きました。T.S君は4回の手術と化学療法、放射線療法を受け、現在は元気に小学校へ通っています。
しかし、ここまでの経過には、大きな、大きなハードルがいくつも、いくつも、気が狂う程あったと思います。
- 髄芽腫を患い、最悪の事態を宣告された
- 数ヶ月の入院生活
- 治療の選択、特に危険性、合併症の不安
- 小学校へ通学、髪の毛が薄いなどで、傷つく言葉を浴びる
- 学校からの理解がなかなか得られない
その他・・・・・・・
退院してからも大変であったようです。
小生は医師になった時に、病を治療する場合、とくに子供の場合は、家族のケアも大切であると当時の上司、現慈恵医大脳神経外科阿部俊昭教授他多くの先輩医師に教わり、これを信念としてきたつもりでした。
しかし、至らぬ点がありました。
T.S君には3歳年上のお姉さんがいます。
悪性疾患と闘うT.S君にどうしても、両親の看護が集中してしまい、その結果、お姉さんは孤独に敏感になり、精神的に不安定になりました。
「今でも昔の事を思い出すと娘は泣いてしまいます。兄弟姉妹の心のケアの必要性をもっと早くに知っていれば、これほどまでに娘を傷つけずに済んだのではないかと悔やまれてなりません。」
との、ご両親の御言葉に小生の未熟さを猛烈に反省しました。兄弟姉妹の心のケアも非常に重要であり、今後、心掛けていきたいと思います。
現在、T.S君は、学校に行きづらくなった友達を誘って登校されているようです。髪の毛が薄い事や、頭に手術の創があるなど、当人には、想像できない苦悩があったのではないでしょうか?しかし、小学生低学年にして、人を支える側になるほど成長されました。病と闘い、それを乗り越え、立派な少年になられた事を、涙がでる程、嬉しく思います。
手術後にICUに入室したT.S君をずーっと、ずーっと、面会時間を過ぎても見つめていた御両親を今でも覚えています。5年間の闘病を乗り越えたのは、苦しい中でも常に愛情を注ぎ、前を見続けた結果と思います。困難なハードルを乗り越えてきたT.S君、そして、御家族に心から敬服します。
T.S君のお母様は現在、「がんの子供を守る会」の世話役として、多くの方を支えて頂いております。そして、
「子供の病気は本当に辛かった。しかし、それを乗り越えたからこそ、今があります。マイナスはマイナスではなく、それがあるからこそプラスになる事を本当に教わった5年間でした。辛かったからこそ、痛みの解る深い人間になり、人を支えられると思います。」
と、述べて頂きました。非常に重く心に響く御言葉です。益々の御活躍を心よりお祈りいたします。
T.S君、それからお姉さん、これからも頑張ってね!
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病は気から、治すも気から 2009.01.24
今日テレビで、あるご年配の女医さんが「医者は病を治すだけじゃなくて、心を救わなきゃいけない。私は医者と患者、というのが嫌いで、そういう風には思ってないの。人と人、友達だと思ってずっと接してるから」という事を言われていて、思わず先生の事を思い浮かべました。
これからも、患者にとってもそのご家族にとっても、心の痛みの分かる素晴らしい医師であり続けてください。
陰ながら、応援しております。
yuuki様
コメントありがとうございます。
その女医さんの御言葉、御尤もです。
先日、篠永先生が述べられた、「名医とは、患者に対し誠実である医師の事である。」
という言葉と共に、胸に刻んで頑張っていきたいと思います。
いつも応援ありがとうございます。
yuuki様の回復を心よりお祈りしております。