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小児の脳脊髄液減少症

小児の脳脊髄液減少症

先日、脳脊髄液減少症を患い、ブラッドパッチを受けたK.Sさん(14歳、女性)のお母様より御手紙を頂きましたので紹介します。


 「私の娘は 現在 ある中学に通う2年生です。この病気になった経緯と 現在の状態を お話させていただきます。 

中1だった 去年の1月、持病の花粉症が始まりました。特に 例年より 咳が ひどく、かかりつけの 耳鼻科で 『花粉症による 咳喘息』だと 言われました。5歳から剣道場に通い、部活も 剣道部でした。 小さい頃から ひっくり返されるのは 日常茶飯事で、 この頃は 体調が悪くても、頑張って 大好きな剣道を 続けていました。

そのうちに、咳に加え、微熱が 長く続いたので、検査依頼したら 『百日咳』でした。耳鼻科から 近くの 内科に回され 薬も飲み、完治したと言われましたが、どうしても 微熱が下がらず 無理して 学校に行っても 「先生の言葉が頭に入らない」と言います。医師は、『うつ熱だから 学校に行って 活動し、発散しなさい』と言いましたが 「動きたくないくらい、だるい」と本人は言っていました。

その上、頭痛や 吐き気も 訴え始めたので、某大学病院へ行き 脳に異常はないか 検査依頼をしましたが 問診と血圧だけで『起立性調節障害、別名 OD障害』と 診断名をくだしました。

この頃は、めまい.腹痛.胸の痛み・手足のしびれが加わり、視力は1.0から0.2まで 下がっていました。

学校には 病名が変わる度に 担任と養護の先生に 報告しに通いました。その時 養護の先生から 「OD障害にも詳しい」と 校医の 心療内科を勧められ 通い始めましたが、何の検査も、アドバイスもなく、ただ薬を出し続ける 薬物治療で、本人の前では、はっきり『うつ病』だと言い、娘は かなりショックを受けていました。処方された 薬を飲んでも 今まで以上に具合が悪くなり、特に つわりのような吐き気は、一日中 収まらず、布団にくるまって、水分さえも 「気持ち悪い」と言って飲めません。薬は 抗うつ剤でしたが みるみる ひどくなっていきました。

医師に相談しても、薬の量や種類を変えるだけで、頼んでも 紹介状を 書く事もしてくれませんでした。このままでは 薬で 廃人になってしまうと思い、OD障害の病院を ネットで探して 行ってみました。経過を話すと 医師は すぐに こども病院の 神経外来に 電話予約を してくれました。2週間後 こども病院での 血液及びMRI検査。その結果 またもや 異常なし とのこと。やはり、百日咳の後遺症で 免疫力が下がり、自律神経が乱れた。『OD障害か全身疲労症候群』。 ただし、抗うつ剤は、徐々にやめたほうが良いと言われました。

治るのは 年単位だと言われ、医師は娘に「学校に行くのは あなたの意思だよ。」と諭し、親の私には「学校だけが 全てじゃないですよ」と言っていました。

娘は 前日から 学校に行こうと 準備しますが、 毎朝 起き上がれず 起きてくるのは 昼近く、真っ青な顔で「気持ち悪い」と言い ふらつきながら起きてくる、その繰り返しでした。もともと真面目な性格なので、遅刻していくことは、とても嫌がり、欠席の日が続きました。

「私は どうしてこんなふうに なっちゃったんだろう?」と いつも 言っていました。そんな中、抗うつ剤を やめていくと 笑顔が戻り、 気持ち悪い合間に 食事もできるように なりました。しかし、楽しみにしていた 宿泊学習や職場体験、運動会に学園祭、学校行事は 何ひとつ参加できず 幾度もあきらめと ため息でやり過ごしました。

6月に一度、勉強の遅れを 取り戻す為に、ある特別支援学校に、 試しに行きました。やる気はあるのに、集中力がなく 頭に 入らない様子でした。その時、支援学校の 先生が私に「OD障害と言われ、ずっと苦しんでいた生徒がいて、特殊な検査をしたら 髄液が漏れる 別の病気でした。気になるようなら、専門の病院で検査してみたらどうですか?」と言いました。

子ども病院や養護の先生には、「OD障害なので、そっとしといてやってください」と言われていたし、その頃 少しずつ状態が良くなっているようにも見えていたし、子ども自身 病院不信になっていたので、聞き流していました。夏休みも、毎日の頭痛と 吐き気は 変わらずありました。しかし 日によって具合が大きく変わります。

元気で、もう、このまま治るんじゃないかと思えば 翌日には一日中ぐったり。また、朝より夜のほうが元気になるのです。頭が痛い・気持ち悪い と言う娘に「今日も行かないの?」と私は 毎日 責めていました。

そして 10月のある日、娘のうわさを聞いて、「もしかしたら、この病気かもしれないから、よく読んで検査してみたらどうかしら?」と 「脳脊髄液減少症 子ども支援チーム」の方が 冊子とDVDを持ってきてくれました。 (前にも 支援学校の先生に聞いたことのある病気だ) と思い、すぐに よみました。主人にも 相談したら、検査は 痛みが伴うので かわいそうだと、最初は反対していました。

しかし、「今までの症状をみても どうしても納得できない」・・・と私の気持ちを 伝え、主人に頼み込み、娘も説得し、 診察することに なりました。山王病院 脳神経外科の高橋医師に 子ども支援チームの紹介で すぐに 診てもらえました。

10月24日、検査の結果、やはり髄液が 漏れていて、治療に至りましたら、効果は覿面でした。 

発症して1年未満の娘は 治療段階で 頭痛と吐き気が取れて感動していました。腰からの治療の痛みより、悩まされていた不快症状が、あっさり 取れて驚いていました。

入院は3泊4日、退院後は2週間 自宅での 絶対安静。 1ヵ月検診の頃までには 短時間の 散歩も出来るようになりました。通院の仕方・治療後の生活の注意やアドバイスなど、支援チームの方に こまごまと 教えていただき、現在も本当に 支えていただいております。

学校にも 病気の説明に 一緒に行っていただき、私自身 この病気を よくわからなかったので、とても心強かったです。

学校側も 病名を聞いてからは 協力体制に入り、校長先生自ら 理解を示し、職員会議にも取り上げ、受け入れ態勢を 整えてくれました。

養護の先生も 文科省からの通達で、この病気を知ってはいましたが、娘とは 結びつかなかったと唖然としてました。うちの娘のように原因が剣道か百日咳か はっきりせず、大きな事故もなかったので、誰も この病気と結び付けなかったし、私自身も この病気の存在を 全く知りませんでした。

あれ程 行きたがっていた 学校に治療後 すぐにでも行けると誰もが 簡単に 思っていました。校長先生は この病気を知り、励ますつもりで 娘に直接電話をし、「もう 不登校じゃないんだから 気軽に  学校においで」と言ってくれましたが、娘は、その日 布団に包まって、泣きじゃくっていました。

痛い治療でも 涙を見せなかった娘が 一体どうしたのか? 親の私にもわかりませんでした。

翌日になって、話を聞くことができました。「私は 初めから 不登校なんかじゃない。」と言って「もう学校へは行かない。」と言いました。

 現在 治療前に比べると、頭痛は、たまにありますが、吐き気は全く無く、本当に 良くなりました。しかし 体力は完全には 戻らず 外出すると すぐ疲れて ベッドで休むという生活です。 

メンタル面でも 立ち直るのに かなり時間が かかりそうです。 校長先生は、娘が、無理して登校した日々の事を殆ど知りません。遅れてしまった勉強、友達の 話を聞くのも だるく、そんな自分が嫌だったこと・ 始めて通知表に「評価できません」とのったこと・部活の後輩が自分を全く知らない事・・・

それでも、今年に入ってからは、やっと 教科書を 開く気になったものの、丸1年の空白があり、どこから どう手をつければ いいのか 悩んでおります。

中学の先生は忙しくて 家庭訪問も殆どなく、「週に一度でも 家に来て 教えて欲しい」と頼みましたが、理解ある校長先生でさえ、「先生方は現状 いっぱいいっぱいで 家庭訪問して 勉強教えることは出来ません」と 言われました。

娘は家庭教師や塾に 行く元気は まだありません。外から見れば 体は大きいし、元気に見えるので、中途半端な状態でいます。学習アドバイザーや、学習システムの制度が 私達の住む市に あればいいのになあ と思います。

今は週に1度 不登校の子が行く 教育センターに行って 先生と1時間だけ 世間話をして 心のリハビリも はかっています。

「今回 感じたことは、 この難しそうな病気は、 誰にでも起こりうる病気だ と言う事です。ありふれた症状です。 似たような症状が 長引く子供がいたら 「もしかしたら この病気じゃないか」と、頭に浮かべて欲しいです。

早く、どこの病院でも 気軽に検査が出来て、どんな医師でも すぐに わかるようになって欲しいです。お友達や 先生に言っても 理解される病気に なって欲しいです。

こうしている間にも、なんだかわからずに 苦しんでいるご家族がいるんじゃないかと思うと、娘のお話をして 未来の「脳脊髄液減少症」の子どもたちの為になれば と思います。 

「この病気になったのは、何か意味があるのだろう」と、娘は、前向きな気持ちでいますが、まずは 皆さんに、この病気を知ってもらうことが第一歩だと思っています。」


非常に心のこもった御手紙ありがとうございます。

この御手紙を拝読し、 本症の認知度が低く、病院のみならず、学校、周囲の理解が乏しいために病気以外の事でもご本人およびご家族の相当な、相当な、苦労、切実な想いが伝わってきました。

体調不良が検査や顔に表れるわけでないので、 「精神が弱い」「気のせい」 、あるいは「うつなどの精神疾患と診断され治療を受ける」事が頻繁に見られます。

脳脊髄液減少症の場合、頭痛などの体調不良が原因で、学業に支障を来たすので、本当は学校に行きたいと感じている子が多いと思います。 それを「気のせい」などと判断されるのは、その子にとっても家族にとっても、非常に酷ではないでしょうか?

K.Sさんをはじめ多くの方々が脳脊髄液減少症という病気と、それ以外の教育や周囲の環境などで苦しんでいます。

本症の認知度を上げるとともに、K.Sさんには是非、この苦境を乗り越えて頂きたいと思います。ここを乗り越えたら、必ず素晴らしい人間になれるはずです。

素敵な将来に向けて、応援しています。頑張ってください。