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一期的に治療した特発性低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫の11例

一期的に治療した特発性低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫の11例

Eleven cases for chronic subdural hematoma caused by spontaneous intracranial hypotension treated irrigation of the hematoma immediately after epidural blood patch
高橋 浩一1, 美馬 達夫1, 秋葉 洋一2 ,中澤克彦2 1山王病院脳神経外科, 2秋葉病院脳神経外科

目的

特発性低髄液圧症候群 (SIH)に伴う慢性硬膜下血腫(CSDH)症例に対し、ブラッドパッチに続いて硬膜下血腫洗浄術を一期的に行った11例について検討した。

対象

対象はSIHにCSDHを合併した124例(男性76例、女性48例、平均年齢 48.8歳)のうち、ブラッドパッチと血腫洗浄術一期的に治療を行った11例(男性7例、女性4例、平均年齢 52.4歳)である。

結果

髄液漏出部位は、CTミエロ(10例)、MRミエロ(5例)、RI脳槽シンチ(6例)で診断し、頚胸椎移行部に11例、胸椎に4例、腰椎に10例、髄液漏出像が認められた。全例、血腫の局在は両側であった。髄液圧は一期的に治療した群では、0.5-31.6cmH2O、平均11.0cmH2Oであるのに対し、ブラッドパッチ先行で一期的治療を要さなかった57例では0-20.3cmH2O、平均6.8cmH2Oであった。11例中、5例が治療前に意識障害を認め、そのうちの2例は、診断後に数日の経過で昏睡状態に陥った。2例でCSDHが再発し、2回の血腫洗浄術を要したが、全例、転機良好であった。

考案

SIHに伴うCSDHの治療法として、血腫洗浄術を先行した場合、再発や治療が追加になる率が高く、周術期合併症を認める場合があるため、保存的加療が有効でない場合は、治療時期を逸せずにブラッドパッチを先行すべきと報告してきた。一方で、血腫量が多い症例では、ブラッドパッチ後の脳ヘルニア合併などが危惧される。実際、SIHに伴うCSDHと診断して数日の経過で、急激に昏睡に陥った2症例の存在に加えて、ブラッドパッチ後の手術待機中に、けいれん発作を契機に脳ヘルニアを合併した症例を経験した。そのため血腫量が多い症例や、髄液圧が上昇している症例では、ブラッドパッチと血腫洗浄術を一期的に行う事が安全と考える。今後、治療方針に対して、血腫量や髄液圧の明確な基準を検討すべきである。

結論

SIHに伴うCSDHで、血腫量が多い症例、髄液圧が高い症例では、速やかにブラッドパッチに続いて硬膜下血腫洗浄術を一期的に行うことで、良好な治療成績が得られる。