脳脊髄液減少症や水頭症など脳脊髄液循環障害を専門に診療を行っている高橋浩一の公式サイトです。

今後の日本の医療

今後の日本の医療

日本脳神経外科学会 第72回学術総会 

TPPなど国際情勢と、日本の医療の現状を考え、今後、どうしていくべきかを考えるセッションがありました。 
 またジャーナリスト、櫻井よしこさんから、「いかに日本の文化を守るか」という題名で、日本の良き文化、そして立派な日本人である事が、今後に重要との貴重な御話を伺いました。
診療だけをしていてもダメで、日本人として世の中の事を、もっと知らないといけないと考えさせられました。
以下、学会抄録です。 


日本では国民皆保険を堅持してきた。しかし、その持続可能性が揺らぎつつあり、TPP交渉参 加によってそれが加速する恐れがある。

TPPは例外を認めない究極の規制緩和だ。

現時点では 混合診療の全面解禁を俎上に上げないとされているが、米国は1985年のMoss協議以来、日本の医療を営利市場として開放するよう一貫して要求してきた。

国内においても、政府の規制改革会議や産業競争力会議を中心に、医療を産業として強化しようという動きがある。 その道筋のひとつが保険外併用療養の拡大だ。 2013年6月14日に閣議決定された「日本再興戦略」では保険外併用療養を活用し、先進医療の対象範囲を大幅に拡大する方針を示している。 

7月26日に開催された規制改革会議も、当面の最優先案件として保険診療と保険外診療の併用療養制度を挙げている。 保険外併用療養とは、保険診療と保険外診療を同時に患者に提供することだ。公的医療保険の下、保険診療の報酬は抑制されているが、保険外診療は全額自己負担で制限がない。 国内外の営利企業や投資家にとって、自由価格市場は魅力的だ。この自由価格市場の成長を期待して、保険外併用療養の拡大は、将来、高額な医療は保険給付外の自己負担でという方向、ひいては混合診療の全面解禁に向かいかねない。 

脳神経外科領域は、患者一人当たり医療費が高く、高額の医療機器を使用している。こうした 医療が保険から給付されなくなれば、脳神経外科領域の医療を国民にひとしく提供することは できなくなり、患者の支払能力によって受ける医療に格差が拡がる。将来も保険給付範囲を縮 小させず、安全性と有効性が確認された必要な医療については、速やかに公的医療保険を適用するべきだ。 

日本の公的医療保険制度は世界的に高く評価されてきたが、その背景には、高い公平性と平等性がある。そのためには、健全な医療保険財政が確保されていなければならない。公的医療保険制度を支えているのは、公費、保険料、患者一部負担だ。この三者のあるべき姿にも言及したい。


 医療の国際比較は、WHO、OECDなど多くの機関から報告され、日本の医療は世界一と評されている。 誇るべき日本の医療にもかかわらず、国は制度改悪の方向に舵を取っている様に見える。 一方、マスコミの論調も日本の医療レベルが高い事を国民に正しく伝えていない。また、 日本の総医療費はOECD 21番目であり、安い医療費で世界一の医療を受けられている国民は幸せであり、先生方初め、日本の医療人の高い倫理観と献身的努力に支えられている。 

一方、技術先進国日本の医薬品・医療機器市場は現在、実に4倍の輸入超過となってい る。1980年代までは輸出超過だった市場である。日本のお家芸である小型コンピューターと電 池で出来ているペースメーカーですら日本製はない。その他やたら高く多くの製品を輸入させ られている。 これらを作れないのには理由がある。

1985年、中曽根・レーガン合意に基づくMOSS(市場志向型分野別)協議に始まり、SII(日米構造協議)を経て、小泉・ブッシュ合意(日米規制改革・競争政策イニシャティブ)へと続く「日米構造協議」の流れで進められた。 いわゆる「痛みを伴う聖域なき構造改革」てある。構造改革の歴史と輸出入の逆転は時期を同 じくしており、「米国のイニシャティブ・主導権」の下に日本の産業が制限を加えられて来た事を明確に示している。 ようやく政府もこれらの開発が進まない事を認識し、重い腰を上げ内閣府に推進室を設置した。

しかし、米国の主導権の下の強い外圧にさらされ進んでいない。米国の外圧の下で進めら れている混合診療解禁への動きの「真の意味」やTPPの裏に隠されている「危険な条項」につ いても言及したい。 このままでは、日本の医療は荒廃する。世界一の日本の医療を守り、更に世界をリードする 素晴らしい医療を実現してゆくためにも、国民として脳神経外科医として努力する方向性を示 したい。