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外傷により発症した学童期脳脊髄液減少症

外傷により発症した学童期脳脊髄液減少症

外傷により発症した学童期脳脊髄液減少症 
-32例における臨床検討―

Traumatic cerebrospianl fluid hypovolemia in childhood and adolescence. Analysis of 32 cases and clinical features

高橋 浩一 山王病院脳神経外科
Koichi Takahashi Department of Neurosurgery, Sannou Hospital

目的

学童期に外傷が原因で発症した脳脊髄液減少症について検討し、治療法、臨床像など考察した。

対象と方法

対象は、15歳以下に脳脊髄液減少症を発症し、発症から5年以内にブラッドパッチを施行した87例中、明らかな外傷がきっかけで30日以内に症状が出現し、外傷が原因と考えられた32例(男性15例、女性17例、平均年齢12.8歳)である。

結果

原因としては交通事故が12例 (37.5%)、部活動や体育の授業など、学校内での受傷が12例(37.5%)であった。受傷部位は、頭部、頚部、背部または腰部打撲がほとんどで、受傷から症状発現までの時間は、受傷直後から30日 (平均5.6日) であった。治療は、保存的加療が効果的でない場合にブラッドパッチを施行した(平均治療回数1.6回)。予後は改善が27例 (84.4%)、部分改善が5例 (15.6%) と、全例に何らかの効果を認めた。学童期発症の非外傷性脳脊髄液減少症同様、良好な治療予後であった。

考案

外傷性脳脊髄液減少症の特徴は、何らかの外傷後に起立性頭痛や、めまい倦怠感などが出現し持続するが、通常、頭部MRIなどの諸検査にて異常を認めない。経過、症状から脳脊髄液減少症が疑われた症例では、確定診断に至らなくても、特に発症早期には安静、点滴などの保存的治療で治癒する事が少なくない。また、保存的治療での効果が乏しい症例に対しては、ブラッドパッチが有効である。しかし、脳脊髄液減少症の認知度が低いため、外傷性頚部症候群や精神疾患など、他の疾病と判断され、経過観察されている症例が稀でない。

結論

外傷により発症した学童期脳脊髄液減少症は、発症早期には保存的治療での効果が高い。それからブラッドパッチも有効な治療法である。何らかの外傷後に起立性頭痛などが出現し、持続した場合には、脳脊髄液減少症を念頭に入れ、早期の対応が重要である。