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慢性硬膜下血腫を合併した特発性低髄液圧症候群の診断と治療

慢性硬膜下血腫を合併した特発性低髄液圧症候群の診断と治療

慢性硬膜下血腫を合併した特発性低髄液圧症候群の診断と治療 92例における病態解析

高橋 浩一1, 美馬 達夫1, 秋葉 洋一2
1山王病院脳神経外科, 2秋葉病院脳神経外科

目的

慢性硬膜下血腫 (CSH) を合併した特発性低髄液圧症候群 (SIH)例において、診断、治療を中心に検討した。

対象

対象はSIHにCSHを合併した92例(男性58例、女性34例、平均年齢48.0歳)である。

結果

治療は、保存的加療のみで治癒した症例が17例 (18.5%)、ブラッドパッチを先行した症例は45例 (48.9%)、血腫洗浄術を先行した症例が30例 (32.6%)であった。ブラッドパッチを先行し、後に血腫洗浄術が必要となった症例が8例 (17.8%)、ブラッドパッチの追加を要した症例は1例(2.2%)であった。手術を先行した症例で、初回手術のみで改善した症例は8例 (26.7%)で、他の22例 (73.3%) は手術後にブラッドパッチや手術の追加を要した。また9例 (30.0%) は当院紹介前に複数回の血腫洗浄術が施行されていた。転帰はブラッドパッチ先行例のうち1例が血腫洗浄術待機中、約5時間の経過で脳ヘルニアを合併し、高次機能障害、視野障害を後遺した。その他の症例は手術先行症例中、2例に周術期合併症を認めたが、転機良好であった。

考案

CSH合併例の治療法として、血腫洗浄術を先行した場合、再発や治療が追加になる率が高く、周術期合併症を認める場合もあり、保存的加療が有効でない場合はブラッドパッチを先行すべきと考えている。また血腫洗浄術のみでは治癒に至らない症例が存在し、ブラッドパッチは必須の治療と考えている。一方、血腫量が多い症例では、ブラッドパッチ後、数時間の経過で脳ヘルニアに陥った症例も経験したため、ブラッドパッチ直後に血腫洗浄術を行う事も重要と考える。

結論

CSHを合併したSIHは適切な治療により、予後が良好である。治療法は保存的加療にて効果が乏しい場合はブラッドパッチを先行すべきである。ただし血腫量が多い症例では、ブラッドパッチに続いて直ちに血腫洗浄術を行う必要がある。