髄液動態の考察 ー 正常圧水頭症学会
- 2023.02.21
- 学会・講演・論文
特発性正常圧水頭症(iNPH)と特発性低髄液圧症 (SIH) との相違性からみた髄液動態の考察
Dynamics and function of cerebrospinal fluid for differences between iNPH and intracranial hypotension
高橋 浩一1, 三浦 真弘2, 橋本 康弘3
1山王病院脳神経外科, 2 大分大学医学部解剖学, 3福島県立医科大学法医学講座
【目的】iNPHとSIHの画像所見の相違性から、基礎医学的知見を合わせて髄液動態を考察した。
【方法】iNPHとSIH症例の頭部MRI、RI脳槽シンチ、CTミエロ画像を検討し、解剖学的、生化学的検討をふまえて髄液の産生と吸収について分析した。
【結果】頭部MRIでは、iNPHでは高位円蓋部狭小化が典型的であるのに対し、SIHでは、高位円蓋部硬膜下腔拡大が認められる。RI脳槽シンチ上、iNPHでは髄液漏出像を認めない症例が多いのに対し、SIHでは髄液漏出像が特徴であった。CTミエロでは、iNPHでは脊髄神経節近位端を境界とする神経根までの描出がある一方、SIHでは脊髄神経節を超えて根周囲軟部組織まで造影剤が進展する症例が観察された。
【考案】iNPHは、髄液過剰で生じる病態に対し、SIHは髄液減少が主たる病態である。SIHのRI脳槽シンチ、CTミエロ画像から神経根鞘-脈管外液性通路を介する髄液の非生理的吸収亢進や脊髄硬膜外リンパ系も関係する可能性が示唆される。そして、キアリII型奇形に類似したメカニズムとして脳の下垂が生じると理解される。高齢者に好発するiNPHでは、脊髄での髄液吸収能が加齢に伴い低下するため、脳が上昇しDESH所見出現に至る機序が推察される。また髄液産生マーカーである脳型トランスフェリン(Tf-1)は、iNPHで優位に低下する。これは加齢性変性に伴う髄液吸収能の低下説と髄液貯留に伴う髄液産生抑制との関係において整合性がある。一方、SIHではTf-1が、明らかな有意差をもって上昇することから、髄液漏出を代償する髄液産生増加を反映した現象と考えられる。これら機序の解明は、髄液循環生理において新たな知見をもたらす可能性がある。
【結論】iNPHでは髄液吸収障害により髄腔内に髄液過剰が生じることで髄液産生が抑制される。逆にSIHでは、髄液吸収過剰に伴う髄液減少を補填するため、髄液産生が亢進している可能性が推測された。
コメントを書く