脳脊髄液減少症と髄液の機能
- 2023.03.26
- 学会・講演・論文
第二回日本脳脊髄液漏出症学会
最終日に発表させて頂いたのは、
「脳脊髄液減少症から髄液の機能と動態を考える」
です。
大分大学医学部解剖学、三浦真弘先生、福島県立医科大学法医学講座、橋本康弘先生との共同研究です。
臨床医学を考える上で、基礎医学的な知見は重要であると、慈恵医大在籍中に、何人もの先輩方から教わってきました。
現在、脳脊髄液減少症診療をしていて、先輩方々の御言葉が身に沁みて、ありがたく感じています。
脳脊髄液減少症の診断、治療成績向上のためには臨床に加え、基礎研究が不可欠です。
三浦先生、橋本先生との研究で、多くのことがわかってきました。しかし、まだ不明な点が残されています。臨床および基礎研究を進めることで、髄液循環生理において新たな知見を今後もたらす可能性が高いと考えています。
抄録は以下の通りです。
………………………
脳脊髄液減少症から髄液の機能と動態を考える
Function and dynamics of cerebrospinal fluid for cerebrospinal fluid leak
高橋 浩一1, 三浦 真弘2, 橋本 康弘3
1 山王病院脳神経外科, 2 大分大学医学部解剖学, 3福島県立医科大学法医学講座
【目的】脳脊髄液減少症では、起立性頭痛をはじめ、多彩な症状を呈する症例が多い。しかし本症発現機序やブラッドパッチの効果など、不明な点が多く残されている。今回、髄液の機能と髄膜外逸脱動態について基礎医学的研究結果を踏まえて検討を試みた。
【方法】脳脊髄液減少症のRI脳槽シンチ、CTミエロ画像を詳細に検討した。また、脳脊髄液減少症症例の症状やブラッドパッチの効果については、髄液の産生と吸収様式に関する解剖学的、生化学的解析データを用いて検討した。
【結果】脳脊髄液減少症のRI脳槽シンチ、CTミエロでは、髄腔内のトレーサー、造影剤が脊髄神経根から神経線維に沿うように進展し、脊柱傍筋群や神経根周囲の軟部組織に貯留する興味深い画像所見が得られた。また低髄液圧症では脳型トランスフェリンが、明らかな有意差(P<0.001)をもって上昇した。一方、ブラッドパッチ治療後では、頭痛のみならず、高次機能障害、不随意運動、視覚異常、聴覚障害、味覚障害、運動障害など改善した症例が存在した。
【考案】近年、脊髄神経根鞘を髄膜チャンネルとした脊髄硬膜外リンパ系吸収や神経根鞘直下に潜在すteardrop signと呼ばれる髄液貯留槽の構造が解明され、神経根鞘域に存在する髄液吸収調節能の存在が示唆されている。髄液減少症の一病態として、これら機能不全による髄液吸収異常も考慮すべきと考えられる。また低髄液圧症における脳型トランスフェリン値の上昇は、髄液漏出を代償する髄液産生増加を反映した現象と考えられる。しかし、脳脊髄液減少症による症状出現やブラッドパッチの効果機序については,その生理・解剖学的根拠は未だ不十分である。これらの詳細メカニズム解明は、髄液循環生理において新たな知見を今後もたらす可能性が高いだろう。
【結語】脳脊髄液減少症の画像所見や、症状発現及びブラッドパッチの効果機序を検討することで、脳脊髄液の動態、機能解明につながる可能性が示唆された。
Key words: cerebrospianl fluid leak, cerebrospinal fluid dynamics, spinal epidural lymphatic system, teardrop sign, brain-type transferrin
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