脳脊髄液異常症から髄液の産生を考える
- 2023.11.14
- 学会・講演・論文
高橋 浩一1, 橋本 康弘2, 宮嶋 雅一3
1山王病院脳神経外科, 2 福島県立医科大学脳神経外科学講座, 3順天堂大学医学部附属順天堂東京江東高齢者医療センター
【目的】髄液動態に関して、脊髄硬膜外リンパ系吸収経路をはじめ脊髄での髄液吸収が注目され解明が進んでいるが、産生機序に関しては不明な点が多い。今回、低髄液圧症 (SIH)、正常圧水頭症 (iNPH)の臨床所見に基礎医学的データを踏まえて髄液産生機序の検討を試みた。
【方法】SIH,iNPH症例の画像所見と、脈絡叢から分泌され、髄液産生マーカーであることが示唆されている脳型トランスフェリン(Tf-1)の髄液中レベルを測定し、検討を行なった。
【結果】RI脳槽シンチ上、SIHでは髄液漏出像を認め、RI残存率低値が特徴であるが、iNPHでは髄液漏出像を認めず、RI残存率は高値を示す症例が多かった。CTミエロ所見は、SIHでは脊髄神経節を超えて造影剤進展が認められた一方、iNPHでは神経根までの描出に留まった。Tf-1値は、SIHでは有意差(P<0.001)をもって上昇したが、iNPHでは低下し、シャント手術にて正常化した。
【考案】SIHは髄液減少が、iNPHは髄液過剰が主たる病態である。SIHでは脊髄レベルでの吸収亢進機序が、iNPHでは吸収能の低下が推察される。SIHでのTf-1値上昇は、髄液吸収亢進を代償する髄液産生増加を反映した現象、iNPHにおけるTf-1値の低下は、二次的な髄液貯留と髄液産生抑制の結果と考えられる。特に、iNPHのシャント後のTf-1値の正常化は、手術介入によりもたらされた髄液産生の増加に伴う変化と推測される。ただし、髄液産生に関して能動的、または受動的な髄液産生機序が存在するかなど不明な点が多い。これらメカニズムの解明は、髄液循環生理において、新たな知見をもたらす可能性がある。
【結語】SIHでは、髄液吸収過剰に伴う髄液減少を補填するため、髄液産生が亢進している可能性が、iNPHでは髄液吸収障害に伴う髄液過剰により髄液産生が抑制される機序が考えられる。
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