治療法からみた髄液動態の考察
- 2024.02.20
- 学会・講演・論文

特発性正常圧水頭症(iNPH)と特発性低髄液圧症 (SIH)の治療法からみた髄液動態の考察
Dynamics and function of cerebrospinal fluid for treatments differences between iNPH and intracranial hypotension (SIH)
高橋 浩一1, 三浦 真弘2, 橋本 康弘3
1 山王病院脳神経外科, 2 大分大学医学部解剖学, 3福島県立医科大学脳神経外科学講座
【目的と方法】iNPHとSIHの治療法の相違性を検討し、髄液産生と吸収動態について組織学的、生化学的解析を行なった。
【結果】iNPHの代表的治療はシャント術であるのに対し、SIHではブラッドパッチをはじめとした硬膜外加圧療法が主体である。ニホンザルを用いたブラッドパッチのin-vivo検証実験では、神経根周囲脂肪組織の密着により、硬膜シール効果は不十分であったが、髄注ICG蛍光観察では、胸部傍椎骨リンパ節への吸収量は明らかに低下した。一方、髄液産生マーカーである脳型トランスフェリン(Tf-1)は、iNPHで優位に低下し、SIHでは有意差に上昇した。
【考案】iNPHに対するシャント術は、過剰な髄液を脳脊髄液腔から腹腔などに持続的排液が期待できる。iNPHにおけるTf-1低下は、硬膜外リンパ系の加齢変化に伴う髄液-生理的吸収の低下と髄液貯留に伴う髄液産生抑制との関係において整合性がある。これに対してブラッドパッチは、血液によるシール効果が有名である。近年、脊髄硬膜外リンパ系(SEDLS)の構造と髄液吸収能との関係が示唆され、SIHの病態の一つとしてSEDLSを介する髄液異常吸収が考えられる。また、SIHではTf-1が上昇することから、髄液漏出を代償するために髄液産生増加が推測される。in-vivo検証実験の結果を考慮すると、ブラッドパッチにより硬膜外が加圧され、髄液圧と硬膜外圧格差が減少し、SEDLSにおいて髄液吸収量抑制が生じることが推察される。しかしiNPHに伴う歩行障害やSIHの多彩な愁訴が改善するメカニズムなど未だ不明な点が多く残されている。これらの機序解明は、髄液循環生理において新たな知見をもたらす可能性が高い。
【結論】iNPHでは、髄液吸収低下と髄液貯留に伴う髄液産生抑制が生じ、シャント術が有効である。SIHは、髄液吸収の異常亢進が主な病因で、ブラッドパッチによる髄液吸収抑制が、主な効果機序である可能性が考えられる。
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