特発性低髄液圧症の髄液動態
- 2024.03.20
- 学会・講演・論文
特発性低髄液圧症 (SIH)の髄液動態 ―特発性正常圧水頭症(iNPH)との比較検討―
Dynamics and function of cerebrospinal fluid for differences between spontaneous intracranial hypotension (SIH) and idiopathic normal pressure hydrocephalus (iNPH)
高橋 浩一1, 三浦 真弘2, 橋本 康弘3
1山王病院脳神経外科, 2 大分大学医学部解剖学, 3福島県立医科大学脳神経外科学講座
【目的】最新の基礎医学的知見に基づいてSIHとiNPHの髄液動態の相違性について考察した。【方法】SIHとiNPH症例の画像所見を、解剖学的・生化学的をふまえて髄液の産生と吸収機序から比較解析を試みた。【結果】頭部MRIでは、SIHに高位円蓋部硬膜下腔拡大が認められるのに対し、iNPHでは高位円蓋部狭小化が典型的所見である。RI脳槽シンチ上、SIHでは髄液漏出像が特徴であるのに対し、iNPHではその所見が稀となる。CTミエロでは、SIHでは脊髄神経節を超えて根周囲軟部組織まで造影剤が進展する症例が観察される一方、iNPHでは脊髄神経節近位端を超えた造影剤伸展は認められなかった。【考案】SIHは髄液減少が主たる病態であるのに対しiNPHは髄液過剰で生じると推測される。SIHのRI脳槽シンチ、CTミエロ画像所見に硬膜外リンパ系の解剖学的特徴を踏まえると、神経根-髄膜脈管外通液路を介した髄液吸収亢進がSIHの病態に関係すると考えられる。そのために、脳脊髄液の非生理的減少およびキアリII型奇形に類似したメカニズムにおいて脳の下垂が生じると理解出来る。また、脊髄硬膜外リンパ系を介する髄液吸収路は加齢と伴い形態・機能ともに低下するため、高齢者に好発するiNPHを、脊髄領域からの髄液吸収が低下した結果、脳が上昇し、DESH出現に至る機序と推察される。一方、髄液産生マーカーの可能性が示唆される脳型トランスフェリン(Tf-1)を由来根拠とすると、SIHでは、高い有意差をもってそれが上昇する。これは髄液過剰吸収に伴う髄液減少を代償する産生増加を反映した現象とも考えられる。ただし、iNPHではTf-1が優位に低下することから、これは髄液吸収の低下と髄液貯留に伴う髄液産生抑制との間に整合性がある。これらの機序解明により、髄液循環生理学に新たな知見をもたらす可能性がある。【結論】SIHでは、髄液吸収過剰に伴う髄液減少を補填するため髄液産生が亢進し、iNPHでは髄液吸収障害により髄腔内に髄液貯留が生じたことで髄液産生が抑制される可能性が示唆された。
Key word: spontaneous intracranial hypotension, idiopathic normal pressure hydrocephalus, cerebrospinal fluid dynamics
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