脳脊髄液減少症や水頭症など脳脊髄液循環障害を専門に診療を行っている高橋浩一の公式サイトです。

不定愁訴と硬膜外加圧療法

不定愁訴と硬膜外加圧療法

不定愁訴と硬膜外加圧療法

Mechanism of epidural space pressurization and indefinite complaint

高橋 浩一

山王病院脳神経外科 

Koichi Takahashi

Department of Neurosurgery, Sannou Hospital1,

【目的】脳脊髄液漏出症や自律神経失調症などの不定愁訴症例の治療には、ブラッドパッチ (EBP) や硬膜外生理食塩水注入 (NS patch)、さらに近年、硬膜外気体注入療法 (EGI)といった硬膜外加圧療法が有効である。しかし、本治療戦略には、不明な点が多く残されている。今回、硬膜外加圧療法を施行した症例を提示し、髄液異常や自律神経失調の病態について考察した。

【症例1】15歳、男性。誘因なく強固な頭痛が出現。RI脳槽シンチで明らかな髄液漏出像を認めなかった。NS patch の効果があり、EBPを施行した。経過良好であったが1年7か月後に再燃した。EGIを施行したが、効果が乏しく、EBPを追加、頭痛は軽快した。

【症例2】35歳、女性。交通外傷後に光覚過敏、倦怠感、頭痛など出現し持続した。頭部および脊髄MRIにて髄液漏出を示唆する所見を認めなかった。EGIを施行した所、諸症状は改善した。

【結果】EBPの治療平均回数は3回である。NS patch、EGIは、初回治療で症状改善する症例が存在するが、多くの症例は複数回の治療を要している。

【考案】硬膜外加圧療法の治療効果は、硬膜外を加圧することで、髄液圧と硬膜外の圧格差を減少させ、髄液吸収を抑制すると考えられている。EBPは、それに加えて血液によるシール効果を持つ。低髄液圧症をはじめ、髄液漏出が著明な症例では、EGIは気脳症などの合併症を呈することが多く、施行は慎重に考えるべきである。一方で、髄液漏出が顕著でない症例ではNS patch、 EGIは、合併症発生は低率であり、繰り返し施行することが可能である。また将来的に肉体的負担の強い労働を希望する症例では、EBPの方が有効である印象がある。しかし現状、硬膜外加圧療法の治療戦略においては決定的なものは存在せず、今後の検討が必要である。