脳脊髄液減少症や水頭症など脳脊髄液循環障害を専門に診療を行っている高橋浩一の公式サイトです。

低髄に伴う慢性血腫の治療戦略

低髄に伴う慢性血腫の治療戦略

特発性低髄液圧症候群に伴う慢性硬膜下血腫の治療戦略 ―271例からの検討

【目的】特発性低髄液圧症候群(SIH)に伴う慢性硬膜下血腫(CSDH)症例について、治療方法と予後について検討した。<BR> 【対象】対象はSIHにCSDHを合併した271例(男性167例、女性104例、平均年齢 49.9歳)である。これら症例の予後から治療戦略を検討した。

【結果】治療成績は、ブラッドパッチを先行した100例 (36.9%)中、79例(79.0%)、ブラッドパッチ直後に血腫洗浄術を施行した79例(26.2%)中、75例 (94.9%) が、初回治療のみで治癒した。血腫洗浄術を先行した症例は60例 (22.1%)で、初回手術で改善した症例は11例 (18.3%)であった。また2例に周術期合併症を認めた。血種洗浄術先行例のほとんどは他院からの紹介である。保存的加療で治癒した症例は33例 (12.2%)であった。予後は、ブラッドパッチ治療保険収載以前にブラッドパッチを先行した1例が、硬膜下血腫手術待機中の脳ヘルニア合併による高次機能障害、視野障害を後遺した。その他の症例は転機良好であった。

【考案】治療法として、血腫洗浄術を先行した場合、再発や治療追加になる率が高く、周術期合併症も少なくない。また重篤な後遺症を認める報告が散見される。保存的加療にて短期間に血腫量が増大し、意識障害が進行する症例も経験している。今回の検討では、保存的加療が有効であった症例は、血種量が少量で、症状が軽度もしくは改善傾向にある症例である。一方、血種量が少量であっても起立性頭痛が顕著な症例では、治療時期を逸せずにブラッドパッチを先行し、良好な治療成績を得ている。若年で非外傷性、両側CSDH症例、血種量に対して症状が強固な症例では、SIHの合併を念頭におくべきである。診断は、SIH合併では造影頭部MRIにて円蓋部硬膜のみならず、小脳テントや大脳鎌も造影される。また脊髄MRIでは硬膜外水信号病変が高頻度に認められ、SIH非合併CSDHとの鑑別に重要である。そして診断確定後には、可及的早期に治療を検討すべきである。

【結論】SIHに伴うCSDHは、適切な診断と治療方針により予後が良好である。