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特発性水頭症の髄液動態

特発性水頭症の髄液動態

特発性正常圧水頭症(iNPH)の髄液動態 基礎医学的知見を踏まえた考察

Dynamics and function of cerebrospinal fluid for iNPH -Biochemical and anatomical analysis-

【目的】iNPHの髄液動態について、画像所見および基礎医学的知見に基づいて特発性低髄液圧症 (SIH)と比較検討を試みた。

【方法】髄液産生マーカーと推測される髄液中脳型トランスフェリン(Tf-1)の測定および、髄液側副吸収に関連する脊髄硬膜外リンパ系(SEDLS)の酵素組織学的解析と、iNPHとSIHの画像所見を精査することで、髄液の産生・吸収動態の違いを検討した。

【結果】Tf-1は、iNPHで優位に低下し、シャント手術により正常化した。これに対しSIHでは、明らかな有意差(P<0.001)をもって上昇した。SEDLSは上位髄節域を中心に、硬膜神経根基部に起始部弁や平滑筋が豊富なリンパ管網が発達した。また生後形態には加齢性退縮が特徴として認められた。画像所見ではiNPHでは高位円蓋部狭小化、SIHでは脳の下垂が特徴とされた。CTミエロ観察では、脊髄神経節近位端を描出境界とするiNPHに対して、SIHでは脊髄神経節より遠位の神経まで造影剤の伸展が認められた。

【考案】高齢者に好発するiNPHでは、SEDLSの加齢変化に伴う脊髄レベルでの髄液吸収の低下により、脳レベルでの吸収不均衡が一因として、DESH所見が生じることが推測された。またTf-1の低下は、髄液過剰状態により髄液産生が抑制される可能性を考慮している。これに対し、髄液減少が主たる病態であるSIHでは、Tf-1高値から類推して、SEDLSによる非生理的髄液過剰吸収による髄液量減少と、それを代償することによる髄液産生亢進も一因と考えられる。しかしiNPHに伴う歩行障害をはじめ、未だ不明な点が多く残されている。これらの機序解明は、髄液循環生理において新たな知見をもたらす可能性が高い。

【結論】iNPHでは髄液吸収障害により髄腔内に髄液過剰が生じることで髄液産生が抑制された。逆にSIHでは、髄液吸収過剰に伴う髄液減少を補填するため、髄液産生が亢進している可能性が示唆された。