髄液の機能と不定愁訴
- 2025.07.23
- 学会・講演・論文
髄液の機能と不定愁訴
Function of cerebrospinal fluid and indefinite complaint
高橋 浩一
【目的】不定愁訴を呈する状態は脳脊髄液漏出症、自律神経失調症などと診断される。これに対し、ブラッドパッチ (EBP) や硬膜外生理食塩水注入 (NS patch)、さらに近年、硬膜外気体注入療法 (EGI)といった硬膜外加圧療法が有効である。しかし、本治療には、不明な点が多く残されている。今回、硬膜外加圧療法を施行した症例より、多彩な症状の発現機序、および髄液の機能、動態について考察した。
【方法】脳脊髄液漏出症の臨床病態を中心に、髄液産生と吸収様式に関する基礎研究データとの整合性を検証した。
【結果】脳脊髄液漏出症は、難治かつ強固な頭痛を主訴とする症例が殆どで、EBP後には頭痛のみならず、高次機能障害、不随意運動、視覚異常、聴覚障害、味覚障害など改善症例が存在した。この効果はNS patch, EGIでも認められた。
【考案】硬膜外加圧療法の1つの効果は、注入物質による髄液圧と硬膜外圧格差の減少に伴う髄液吸収量低下が関係すると考えられる。EBPは、それに加えて血液によるシール効果を持つ。しかし、多彩な症状出現と治療効果機序について、未だ不明な点が多い。近年、髄液圧調節に脊髄硬膜外リンパ系を介する生理的吸収路の役割が示唆されてきた。脳脊髄液漏出症の一病態に、髄液吸収亢進との関連も考慮すべきであろう。特に、脊髄神経根に生じる髄液吸収機序解明は、不定愁訴の発現機序、さらには髄液循環生理にて新知見をもたらす可能性も推測される。治療戦略に関して髄液漏出が著明な症例では、EGIは合併症を呈することが多く、施行は控えるべきである。一方で、髄液漏出が顕著でない症例ではNS patch、 EGIは繰り返し施行することが可能で有効な治療である。しかし現状、硬膜外加圧療法の治療戦略においては決定的なものは存在せず、今後の検討が必要である。
【結語】硬膜外加圧療法の効果を検討することは、脳脊髄液漏出症や自律神経失調症の治療成績向上と同時に、脳脊髄液と自律神経との関係解明につながる。
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